神出鬼没の変態紳士「やまさん」が贈る脳汁全開コラム。日夜「取材」と称しホール徘徊に勤しむ高純度のスロ中毒者。もしかすると、今夜あなたのホールに訪れるかもしれません。
「紳士的賭博観測記録」
vol.48(07.04.15 UP!)
【砕かれた思い出】
その時、僕は絶望の淵に立たされていた。
目がくらむ程の太陽の光が、その背丈に不釣り合いなランドセルを照らしている。目に映る全てのものが新しく、手にする全てのものが興味の対象だった頃。
6年間、最後まで使うことの無かった算数のおはじきセットに名前シールを貼りながら、これから始まる学校生活に対する期待を膨らませていた。折り目ひとつ無い真新しい教科書をめくると、果物の挿絵が目に飛び込み、勉強の楽しさを予感させた。
喧嘩をしたり、怒られたり、泣いたり笑ったり。あっと言う間に過ぎ行く日々。そんな毎日が楽しいのか楽しくないのかを考えた事は無かった。毎朝、必ず太陽が昇る事と同じく、毎日通学路を往復した。
輝くランドセルを初めて背中にした春から二年の時が過ぎようとする頃、一人の生徒が転校するという事実を知る。
栗色の髪に大きな瞳が輝いている。そして健康的な小麦色の肌からは、笑うと白い光が溢れた。明るい性格の彼女はクラスメイト皆に好かれ、特に男子生徒からは絶大な支持を得ていた。そのため、この出来事はクラス全体を震撼させたのだ。
教師からの発表を受けた後、一人の男子生徒の嗚咽が響く。そして続くようにもう一人。別段動揺する事の無い本人を前に涙する二人を冷やかしながらも、心の中では絶望感が溢れ出していた。この時初めて異性に抱く想いの味を知った。
彼女がどの町に移り、どんな生活を送るのかなんて、これっぽっちも想像がつかなかった。ただ一つ、もう二度と逢えないのだろう、ということだけは覚悟しなくてはならなかった。
もしかすると、そう遠くない隣町に引っ越しただけかも知れない。仮に遠い町に移ってしまっても、逢おうと思えば逢えたのかも知れない。しかし、それは物心がついた頃に考えられた事だ。事実、通学路の徒歩2km圏内が自分だけの世界だった頃、転校という大きな壁の前ではなすすべも無かったのだ。
いくらかの時が過ぎ、あの時の二人は違う女子生徒を追いかけ回している。二人はあの日、涙と共に想いまでも流したというのだろうか。だとすると、僕だけが流せてはいなかったのだろう。
7年後、中学を卒業し高校へと進んだ。九割以上男子生徒で埋め尽くされた工業高校の生活に期待する事なんて何一つなかった。しかし初日、クラスに二人だけ女子生徒の姿が移った。
「吉田花子さん。」
「はい。」
花子か、あの日どこかに行ってしまった彼女も、名字は違えど花子と言った。もっとも、同じ名前の人間なんて掃いて捨てるほどいるものだ。一瞬だけあの日の情景がよぎったが、すぐに現実に戻り、机の木目を見つめていた。
運命の再会なんて、ドラマや映画以外にあるはずなんて無い。無理矢理にでも否定しながらも、叶うはずの無い想いが微かに揺らめいていたのかも知れない。
「もしかして、やまさんですか? 私です、山田花子です。」
あれ? あれれ? あの……昔の面影が薄れているんですけど……。私の美しき、そして儚き思い出を返してチョーダイ!!
古き良き思い出は、そっと胸にしまっておきましょう。
取材ホール/T県K市:【KK高校】
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