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「紳士的賭博観測記録」 vol.61(07.07.28 UP!)
【体温】
実は最近、ちょこちょこと東京へ出張しています。
目的地は主に渋谷方面なんですけど、渋谷と言えばアレじゃないですか、チーマーじゃないですか。いつ何時、狩られるのかも知れないという恐怖に満ちた街区ですよね。プライベートなら、間違っても行くことはないでしょう。
しかし大事なお仕事となれば話は違ってきます。奥歯にギュッと力を入れ、東京駅から山手線に乗り込み渋谷を目指します。だいたいの場合、車内は多くの乗客でぎゅうぎゅう詰めになっており、とてもじゃないですけど座席に座ることなんてできません。けれども、時間帯やタイミングによっては、運良く座席を確保することもあるんです。
「ふ〜、よっこらしょ。」
…さっきまで座っていた人の暖もりを感じます。
この温もりが、セクシーでフェロモンをムンムンに放出したオネーチャンのものなら、「ぐへへぇ」とか言いながら顔面で尻温を堪能するんですけど、実際はダンディズムの欠片も持ち合わせてなさそうなサラリーマンが座っていたのですね。これには正直心地悪く感じられたのでした。
今の世間って、なんだか殺伐としてるじゃないですか。人は皆さびしがり屋なのに、他人に対してはとっても冷酷。「こんな社会ではイカン」と思いながらも、知らず知らずのうちに私自身の心も殺伐としてきたように思えて、なんだか情けなく思えてきました。
よくよく考えてみると、人の体温って素敵なものだと思うんです。
20年ほど前、今のように腐っていない少年時代のある秋のこと。その時期は、残暑のせいもあり日中は暑いのですが、夜になると肌寒くなるんです。
寒ければ、服を着込んでみたり、毛布を被ってみたりと、対処法はいくらでもありますよね。でも、当時の私のアンポンタンっぷりは半端無く、「寒い、寒い」と丸くなるしかありませんでした。生き抜くための基礎知識が欠如していたんですね。
ですので、ただただ小さく丸まっていたんですけど、寒さはこれっぽっちも解消されません。やっぱりね、寒いとヤバいじゃないですか。命の危険を感じるじゃないですか。もうね、暖まるためなら、ガスコンロで身を焦がそうとも、燃えさかる恋の情念に心焦がそうとも構わない訳なんです。
まぁ、防寒の対処もできないような少年が、ガスコンロで暖まるなどというインテリジェンスは持ち合わせていないわけで、やっぱりただただ震えていたんですね。
「父ちゃん、寒いよ〜」
「よし、父ちゃんにくっついてろ」
「父ちゃん、あったけぇ〜」
当時は親父の体温だけが秋の寒さを凌ぐ唯一の暖房器具でした。今思うと、毛布を出すとか、厚手のパジャマを着させるとか、もっと対処法があったんじゃないかって思うんです。まぁ、きっと親父も面倒臭かったんでしょうね。
親父が寝転がってテレビを見ていれば、私も前に寝転がりました。親父がトイレに立てば、その体があった部分の畳の温もりに暖められていました。
よくこんな話を耳にします。それは、家で粗大ゴミ扱いされる父親の話。
毎日終電まで働き、いつもクタクタのお父さん。休日は、疲れを取らなくてはなりませんから、家でゴロゴロとしています。するとどうでしょう。奥さんが掃除機で小突いてくるではありませんか。
「あなた、邪魔だから公園でもなんでも出かけなさいよ。」
「えぇ〜、疲れてるのに…」
このように、冷酷な妻から迫害されているお父さん達。家族の不満を一身に浴び、尊敬や尊厳などは地に墜ちてしまい、革靴と心をすり減らす毎日。頑張っても頑張っても報われないと嘆いている人もいるのでしょう。
でもね、私はそうは思いません。いつも頑張っているんですもの、好きなだけゴロゴロしてください。「ビール持って来い」とか「うどん作れ」とか言って、自分は動かなくても良いんです。
父ちゃんは寝転んでいてくれるだけで良い。
ただそこにいてくれるだけで良い。
私もいつか父親になったら、ゴロゴロして畳を暖めたい。
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