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ほら、あなたの隣。
その彼が私かもしれませんね… ![]() vol.64(07.08.17 UP!) 【山に咲く花の蜜】 茹だるような暑さの8月。 車のエアコンでは冷えきらないほどに上昇した気温は、40度に届こうとしている。拭っても拭っても流れ出る汗をそのままに、ひたすらステアリングを右へ左へと切り返す。 この日、私は「蔵王」へ向かっていた。お盆の連休を利用し、日頃の疲れを癒すための旅行を計画していたのだ。 満員電車、コンピュータ、ビル群、建設工事…。毎日を都市部で過ごしていると、知らず知らずのうちに心がせわしなくなっていく。 これは「焦燥感」というものだろうか。留まることを知らない欲望、一向に出口の見えない目標への道のり、行動に比例しない結果…。数え挙げるときりがない。 機械にはメンテナンスが必要だ。手入れをすることで、その寿命は変わっていく。人の心も同じだ。どんなに強靭な戦士にも、時には休息が必要なのだ。 夕日が完全に隠れてしまう前に、車はペンションに到着した。小型乗用車が1台、セダンが1台。先客は少ないようだ。 この時期、ペンションに宿泊する人間といえば、家族連れか夫婦くらいのものだろう。静寂を欲していたのにも関わらず、五月蝿い思いをしなければならないのかと思うと、少しだけ肩が落ちた。 とにかく汗を流したい。チェックインを早々に済ませると、半裸のまま浴室へ向かった。 熱い湯船に浸かりながら、頭の中では明日の予定を構築していた。有名な観光スポットは、人々の混雑のために楽しめないだろう。 そうだ、人が寄り付かないような隠れた名所があるのかも知れない。ペンションのオーナーに聞いてみよう。 よしっ、小さな声でそう呟き、湯船から出ようとすると、数人の話し声が近づいてきた。 「……でさ〜、すごいよね〜」 「そうなの、とってもキレイだったよね」 女性同士の会話のようだ。おそらく、どこかの観光地にでも行ってきたのだろう。興奮気味なハイトーンが浴室に響いた。 いや、響き過ぎではないだろうか。浴室のドアの向こう側は脱衣所だ。そのドア一枚越しに、人の影が映っているではないか。 このペンションの浴室は、一般家庭のそれと同じ造りだ。広くもなければ、男女に別れているわけでもない。施錠し、組ごとに入るというシステムであったはずだ。 しかしどういうわけか、その女性達は脱衣所で洋服を脱いでいる。ドア越しに見える胸の膨らみやボディラインを見ていると、この状況に対する原因なんてものはどうでもよくなっていった。 「きゃっ、ごめんなさい」 「えっ、先客がいたの?」 「どうしたの? どうしたの?」 ←戻る 進む→ ◆トップページ Copyright(c)2006 Kensan & Yamasan All rights reserved. |